2008年9月17日:日本の損害保険業界に対する見解

サウスイースタン・アセット・マネジメント(以下、サウスイースタン)は、近時、日本の損害保険業界に対するサウスイースタンの投資に関して、様々な報道機関からの問い合わせを受け、以下を表明いたします。

損害保険業界における最良のモデルとして、サウスイースタンは、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ社(以下、バークシャー)の提示するモデルが適用できると考えています。バークシャーが提示する業務原則は、経営陣にとっての指針となり、消費者を保護し、株主に利益をもたらし、同時に、規制上の負担を減らすことができます。こうした成果は、すべてのステークホルダーが、バークシャーの成功から利益を得られるということの証しです。

具体的には、バークシャーは次のようなことを示しています。

  • 顧客満足:優れたサービス、低コスト、誠実な販売業務、革新的な商品、そして、金融危機や自然災害の際にセーフ・ハーバーを提供する堅実なバランス・シートにより、顧客の満足を獲得。
  • 規制当局満足:困難な時期においても、業界が直面する問題への解決策を提供できる高い支払能力(ソルベンシー)水準を維持することにより、規制当局の満足を獲得。
  • 投資家満足:保険引受による収益と株主資本への優れた投資を組み合わせ、1株当たりNAV(純資産価値)※1を高い比率で増加させることにより、投資家の満足を獲得。

バークシャーの経営陣は、自身も大量の自社株式を保有しています。したがって、この利害の一致により、バークシャーの1株当たりNAVの増減に伴い、経営陣も株主と同様に利益を得たり損失を被ることになります。これは、すべてのステークホルダーの利益に直結するものです。NAVの増加により、保険金支払い能力が強化できると同時に、保険料収入を増やすために活用できる資本も増えます。また、事業全体の成長は、新規顧客の費用を低減させると同時に、従業員の給与を増加させます。つまり、すべてのステークホルダーが、バークシャーの優れた保険引受と投資活動に対するコミットメントから利益を受けられるのです。

日本の損保業界は、以下にあげるような側面からバークシャーに類似すると考えられます。

  • 最近の保険金不払問題にもかかわらず、優れた顧客サービスを提供している。
  • 一般的に収益性のよい事業を行っている。
  • バブル崩壊や最近の世界的な信用問題などによる損害を最小限に抑えた、堅実なバランス・シートと健全な与信方針を特徴としている。
  • 世界の保険会社と比べ、株主資本に対してかなり多くの投資を行っている。

このような類似点があるにもかかわらず、日本の損保業界に関わるすべてのステークホルダーは、十分な利益を得られていません。これは経営陣が、保険引受料のマーケットシェアだけを重視しているためです。経営陣は、法人契約を得るために自社の投資ポートフォリオを利用し、その法人は、自社や社員の保険契約を結ぶ見返りに、損保会社から必要な投資を受けています。日本の損保会社は、一般的に、こうしたいわゆる「顧客関係」取引によって、多額の保険引受収益をあげています。しかし実際には、このような方針が、日本企業の全ステークホルダーにとっての企業価値を損ねていると言えます。

その理由は以下の通りです。

  • 日本の顧客は、国際的なリスク調整水準と比べ保険料を払い過ぎている。特に、保険会社が投資をする法人の「団体」保険に加入している個人は、著しく高い保険料を支払っている。
  • 損保会社間の競争は、価格やサービス、商品ではなく、保険契約を「買う」ことにある。このため、日本の法人顧客には革新的な保険商品が提供されていない。
  • 損保会社は、投資収益ではなく、保険引受料のために投資を行っている。このため、損保会社に投資する日本人投資家は、低い資本収益率に苦しんでいる。
  • 8兆7,000億円という日本株を、株主ではなく販売員のために運用する損保会社が、投資先の経営陣を受動的に支援することによって、損保業界以外の企業へ投資する日本人株主にも被害が及んでいる。
  • 管理できない投資リスク、不十分な情報開示、幹部経営陣の理解の乏しさが、保険リスクをはるかに上回っているため、規制当局は損保業界の支払能力を適切に判断できない。
  • こうしたシステムにより、損保会社の経営陣は利益を得ている。つまり、株主の資金を利用して、引受業務の実績によって決まる、経営陣の手当てや賞与に充当している。

上記のような慣行により、株式資本は大きく損なわれています。過去17年間、日本の損保業界は、保険料収入が大幅に増加したにもかかわらず、NAVは年率約1.5%の割合で下がっています。ちなみに、バークシャーの1株当たりNAVと株価は、同じ期間に年率18%上昇しています※1。

この期間の損保業界における株式投資の累積損失額は、自然災害発生時の損失をはるかに上回ります。2008年3月期、損保会社は、株式ポートフォリオにおいて3兆2,000億円の損失を出しています。これは、念密な信用損失額として開示された2,000億円の16倍です。現在に至るまで、日本の経営陣は、その惨たんたる運用結果について、自分たちの管理能力を超える、業界や規制当局の力によるものだとして、その責任を回避してきました。

サウスイースタンは、過去10年にわたり、日本の損保会社がバークシャーのモデルを取り入れられるよう、何社もの経営陣と協働を続けてきました。自己株式の取得など、いくらかの進展が見られましたが、損保業界における改革のスピードは極めて遅く、失望の念を禁じ得ません。サウスイースタンは、今こそ、損保業界の新たなリーダーシップ・モデルを試みる時が来たと考えています。この新しいモデルは、次に示すようなシンプルな前提に基づくものです。

  • 投資活動と保険引受は、等しく重要である。
  • 投資判断は、保険引受の判断とは切り離して行う。
  • 投資部門を主導するのは、長期的な投資運用の成績に基づいて報奨を受け、保険会社からの影響を受けない、有能な投資家とする。
  • 資本水準は、明確に定められた保険リスクを反映する。
  • 幹部経営陣の報酬は、IFRS基準(国際財務報告基準)に従い算出された、1株当たり NAVの上昇に基づく※2。
  • 株式が1株当たりNAVを下回る価格で取引されている場合、株式の買戻しにより、過剰資本を株主に返還する。
  • 取締役会は、ベスト・プラクティスに関する日本のPFA(企業年金連合会)の提案に従うこと。損保事業を取り巻く環境が急速に変化していることを踏まえれば、損保会社は、取締役会の委員会システムを社外の適任者(関連する専門知識を有し、自らも自社株式を大量に保有する、利害関係に対立のない者)に主導させることで、最大の利益を得ることができる。

さらに指摘したいのは、日本の損保業界全体において、IFRSのNAVを大幅に下回る価格で取引が行われている点です。サウスイースタンの10年にわたる株式保有期間を通して、ずっとこうした取引が続けられています。

日本以外の国では、収益性の高い損保会社は一般的に、1株当たりNAVを優に上回る価格で取引を行っています。実際、最近では、東京海上ホールディングスが、海外の上場保険会社を2社、NAVを大幅に上回る価格(キルン社の場合はNAVの1.7倍、フィラデルフィア・コンソリデイティッド社の場合はNAVの2.8倍)で買収しました。日本においても、適切に経営されている損保会社は(特に現在、日本国内の株式ポートフォリオにおいて極端に過小評価されていることに鑑みれば)、実質的にはNAVを何倍も上回る価値を有する、とサウスイースタンは考えています。

今日の株式市場の不振は、日本版バークシャー・ハサウェイを生み出すには格好の機会を供しています。士気の高い経営陣が独立した取締役会に率いられ、かつ、保険引受業務の質やコスト削減、そして、保険引受とは独立して選択した、過小評価されている日本株式のポートフォリオを重視するようになれば、日本の証券市場全体を変えていくことも可能です。これが成功すれば、日本の株式市場にプラスの連鎖反応をもたらすと同時に、損保業界全体へのリターンも改善できます。

サウスイースタンは、日本興亜損害保険株式会社(以下、日本興亜)は、かかる変革を日本に起こす、またとない機会を提供していると考えます。日本興亜は、系列による強力なつながりを持たず、保険引受額の低下に直面し、コスト面での競争力も不足しています。また、過去17年間の1株当たりNAVは年率3%近くの低下、つまり、非常に悪化している業界の平均値と比べて2倍近くも下がっています※1。さらにこの期間、日本興亜の株価は年率1.5%下落しました。損保業界において、変革に向けた絶好の機会を提供できるのは、日本興亜をおいて他にありません。現状の改革によって、誰よりも利益を得られるのは、日本興亜の勤勉な従業員と忠実な顧客の皆様に他ならないと考えています。

※1 添付資料1「定義と算定」参照
※2 添付資料2「報酬モデル」参照